2010年07月03日

八ッ場のホタル 観賞記

 6/30の日づけで、表題はホタルなのに、その後に言及、記述なく、岸壁に宙づりになっていたユンポのごとく、宙づり状態のまま、日数を重ねてしまいました。
 そこで、本日3日、ある会報に送ったばかりのホタルの草稿を転載させていただきます。
 この会報は、男女共同参画法が制定された1999年に群馬県が募った「女性のための県政講座」に学んだ第1期の女性たちが、終了後に発足させ、続く年度の聴講者も加えつつ現在に至る、NPO法人「ウィメンズ・ウィル・ぐんま」という会が毎月出している会員間のものなのです。
 なお、実は締切は新役員体制になった5月から月末締めとなっていたのです。そこに以下のように大上段に構えた、八ッ場の自然環境をシリーズで記させてもらったのですが、二回目の先月はいつもの調子で10日過ぎのつもりでいたら、早くも会報が届いてしまった次第。なのに、またも相変わらずの遅延状態でいたら、先月は原稿がいっぱいだったので催促もなかったでしたが、今月は新会長さんから「4日に印刷するから、3日の夕方までに」とのメールをもらってしまったのです。
 16時すぎようやく、時計をみながら急いで記した相変わらずのあたふたもの。
 何を記すか、迷うことなしにホタル!!

 実は、県の関係課にも配布され、要職の関係者の会員もいられるので、やや自己規制でもありますが、おもんぱかって生々しい体制批判は自重気味。自然環境の破壊ならということで…… でも、八ッ場ダム問題もここまで市民権を取られました。
 また、それを理解してくださる女性たちに囲まれているというのは幸せです。昨年秋、八ッ場のカモシカ親子のことを記した際には、女性たちの紅涙を振り絞らせた(?)らしく、今回のシリーズ容認にもつながった所以です。
 
 前置き、長くなりましたが、
八ッ場 癒しの風俗詩                     
            第二回  八ッ場のホタルも、とめどなく妖し
 ダムの命名の由来となった八ッ場沢と同じく、長野原町の国道沿いの両側には幾つかの沢筋がある。強酸性の吾妻川に注ぎ込むこれらの沢水は、いずれも純な真水で、古来より集落ごとの飲み水として用いられて、田畑を潤してきた。
その一つ、ある地区の沢筋のホタルの推移を追って八年になる。ここはホタルの名所として、地域民に親しまれてきた。高台の木陰の水口を10㍍ほど突き進んだ、昼なお暗い山中の大きな岩の割れ目から、尽きることなく流れ続ける沢筋である。
 さて、この細い流れには不似合いな一基9700万円もの豪華な防災ダムが建設される前の2002年夏までは、周辺の杉木立ちをほの明るく染め、浮かび上がらせるほどの光のショーが繰り広げられた由。前年には、子供たちまで巻き込んだ国交省の鳴り物入りの「ホタルの引っ越し大作戦」なるキャンペーンが展開されていた。
 当然のことながら工事後の水は濁り、沢筋は荒れ放題。翌年の2003年には“光の一大ページェント”どころか、最も多い時でも約30匹足らずに激減してしまっていた。
 時期も逸した7月半ばのたった3匹の、この時点での惨憺たる光景しか知らなかったので、臆面もなく拙著に「ホタルの保護ならぬ、死滅作戦か」と記した経緯がある。
 
 以来、7年間もの歳月は、景観を周囲にしっとりと溶け込ませ落ち着かせた上に、川水も澄ませてくれていた。「自然は再生するもの」と反撃された、その一部を素直に認めている。
 もともとは地元青年団有志のボランティアによって、長年にわたり保護活動をしてきたそうであった。なお、派手な売名的宣伝は行わず、ひたすら地道な保護活動に徹していられるここの皆さんの精神性の高さには頭が下がる。為に、ご意向にそって場所は記さず。
 そんな経過を経て、本年も6月初めより、数回にわたり問い合わせをさせて頂いてきた。天候不順のためズレこんでいて見頃は6月下旬~月初め。春先にイノシシに沢筋を荒らされてしまった影響が危ぶまれてきた。現在、周囲は防止の電柵が張り巡らされている。
 小さな川筋一つにも、そんな数多のストーリーが折りたたまれている。

 ホタルの観賞は梅雨時が最高とも聞くが、6月末の珍しく晴天の夜、乱舞のピークと踏んだ。夜7時15分、周辺一帯に残業の工事の音もピタリと止み、奥山には刻々と闇が迫る。
 響くのは己の跫音のみの静もりかえった急峻な小道を独り怖々と辿りつき、目を凝らすと、一帯の杉木立ちの樹幹から、まさに蛍光色の淡く、それでいて吸引力のある光がフフフワと浮き出てきた。8時近くなると次第に数を増し、約30ほどに(木陰で休んでいるのもあり、実際には倍数との由)なり、漆黒の茂みと化した周辺の木々の輪郭をほのかに浮かび上がらせてくれた。
梅雨時の湿り気を帯びた夜気は、ホタルを詠った数ある古歌の中でも、ひと際知られる和泉式部の、京都・貴船神社に詣でた際に、蛍岩周辺の情景を詠んだという、
 物思へば 沢の蛍もわが身より あくがれいづる魂かとぞ見る(後拾遺集)
からの連想ではないが、幻想的という月並みな余韻をこえて、一種酔うように艶めくいざないすら放ってくるのが不思議だ。
 何よりもときめくのは、まだここは俗化していない神秘さに加え、生まれたばかりのホタルが描く清らかなシルエットは、幽玄この上なく、非日常の世界に心置きなく身をゆだねられる一時にあろう。
 地元民の手づくりの癒しの空間が、先々の日も不必要に開発されぬことを祈る。
 帰途、坂道を下りてきたら「バシャッ ドスン」と大きな物音。黒い物体が勢いよく脇道の草むらに駆け込むのが目に入った。どうやら、イノシシさんのお見送りの予期せぬ現実であった。                               (鈴木 郁子)


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Posted by やんばちゃん at 23:41│Comments(0)八ッ場だより
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