2009年11月13日

反対運動の闘士達にお会いできて 「あとがき」転載二

  引き続き、拙著「あとがき」の転載を。

鈴木郁子著 『八ッ場ダムー足で歩いた現地ルポ』(2004年12月刊)「あとがき」より
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 「現地はそうっとしておき、立ち入らない」というのがその頃の運動の鉄則に近かった。が、これまでの稚拙な市民運動体験から「現地とつながらない運動はあり得ない」という思いがあった。
 その頃準備段階にあった「国交省に約束を守らせる会」の創立時のメンバーの方々は、「公表したってどうってこともねえよ」と快活にいい切って下さった。この言葉を杖に、八ッ場の心優しい風土にいざなわれるように、組織からも仕事からもほされてしまった素浪人の私は空白の一時期、頻繁に訪れることになり、今に続くご厄介をかけている。
 思うに“私への仕事づくり”の配慮と推察できる農作業の手伝い。各種のイベントで “にわか露天商”として日銭を稼ぐ際の農産物を廉価に分けてくださるなど、本当に心温まるご厚情の数々。物品を販売するなら、少しでも八ッ場にちなんだ品物をとの気持ちからだったが、むしろご面倒をおかけしたと痛感している。
 メンバーの皆さんは至らぬ私を叱責しつつも、存分な人間の響きを持っておつきあいくださっている。
 この場を借りて、心からの感謝を申し上げたい。
  
     「国交省に約束を守らせる会」成立に至る経緯
 実はこの前年の春の頃、薄いガリ刷りの記録集を手にし、それがうれしい交流の糸口になっていた。
 そこには、反対運動の盛んだった昭和四二年一二月一五日、雪の降りしきる中、雲林寺で開かれたムシロ旗を掲げての「八ッ場ダム総決起集会」の様子が記されていた。行間から噴出する怒りや熱のある論調は、どなたも鋭く的を得た発言で、今に新しく感動ものであった。
 この方たちはまだご存命だろうか、お目にかかりたいなと思いつつ時すぎたが、編集責任者のS・Mさんたち当時は若手だった数人がお元気だと教えて貰えた時には、小躍りしたものである。調印式の数ヵ月前と記憶する。直ちに電話をかけ、日時を決めるやいなや、珍しく素早く動いたのを記憶している。お訪ねしたある方は「来るんが遅すぎたい。せめて三年前だったらな、まだ何とかなった……んに~」と嘆息された。かつての闘士たちもダム推進の方向が定まり、諦めの中で所在なくたたずんでいられた時期であった。
 久しく情報分断されていた水没地内に、こまめに全国の動きを伝える一方、お会いしたAさんの話をBさん、Cさんにつなぎ、またAさんにとつないだ。
 およそ二年間の準備を経て、二〇〇二年三月、四期一六年の無投票となる町長選に異議を唱え、会員のKさんが出馬。絵ビラに代表のSさんが仮称として「国交省に約束を守らせる会」と用いた名称が正式名となった。水没地の空気はまだ硬いものがあったが、二〇〇一年六月の補償基準調印式の後、次々と破られていく約束ごとに不満がくすぶり、横の連携は急務だった。名称が建設を容認しているとの批判もあるが、あくまでも現地再建に関する、地権者の要求を貫くことでまとまった会であり、会員間の考えには、当然ながら温度差はある。
 同会は月一回程度の会合を重ね、二年後の今夏、五月に提示された下流の吾妻町の補償基準が、水没地よりも高いことを知ったことを契機に、一月余にも及ぶ、協議を重ね、この間の理不尽な国土交通省の一連の対応に声を上げた。
 水没地内への新聞折込による情報発信は、現在までに三回出された。№4の準備中である。内容はあくまでも現地再建に関する、水没当事者としての要求事項のみ。記すまでもないが、行動の根底には、自分達の補償額の多い少ないではなく、国のインチキに対しての止み難い怒りからであろう。そんな狭い了見の方たちではないことはよく知っている。
 思えば、諦観の中でやむなく崩れた住民運動が、良かれ悪しかれ再び動き出すまでには、五年弱の歳月が流れていた。


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Posted by やんばちゃん at 21:21│Comments(0)八ッ場だより
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