2010年05月28日

八ッ場ダム「中止」の前に、倉渕ダムの成果あり(二)

『土と健康』~、大塚さんのインタビュー、昨日の続きです。

市民団体が結集、県レベルの反対運動へ 
問 2002年7月には「倉渕ダム建設凍結をめざす市民の会」が発足、8月にはそれまでの市民団体などが結集して「倉渕ダム建設凍結を求める県民会議」ができて、運動の方向性も倉渕ダム問題を広く市民に知らせる広報活動にも力が入って、運動が幅広くなり、かつ政治的な面にも及んでいきます。それまでに大方の論点は出されていたということですか。
大塚 当初の運動を担ったのは「高崎の水を考える会」で、私は事務局長をしていました。会としてダム問題の専門家が集まっている「国土問題研究会」に依頼し、「倉渕ダム調査団」を組んでもらい、2002年3月と5月に、合同で現地調査を実施しました。そしてその結果を「群馬県倉渕ダム計画の問題点と烏川総合治水対策」という報告書にとりまとめました。倉渕ダムの主な論点はここで明らかになっていたと思います。イヌワシの生息についてはこの後のことですが……。
問 「県民会議」の設立総会(2002年8月31日)には、400人の参加者があり、政治的に保守系も含めて大同団結の様相を強めました。その後の運動の方向は、ビラをつくったり、各地で校区ごとに住民説明会を開いたりして倉渕ダム問題を知ってもらう広報的な活動に力を入れたとのことですが、同時に、専門家による「倉渕ダム再評価委員会」もできましたね。
大塚 住民のあいだに倉渕ダム問題が広まるにつれ、推進側と反対側と、どちらの意見が正しいのかという声が出てきたのは当然のことです。そこで、県民会議が第三者機関としてNPO法人「地域シンクタンク高崎国際センター」に依頼し、民間の学識研究者や専門家による「倉渕ダム再評価委員会」が組織されました。
 委員長には環境問題の大御所で東京大学名誉教授の宇沢弘文氏、委員には、河川工学の大熊孝氏(新潟大学教授)、国際政治学の多賀秀敏氏(早稲田大学教授)、水源問題全国連絡会代表の嶋津暉之(てるゆき)氏、そのほか鳥類研究者、ジャーナリストなどの第一人者による強力な委員会ができました。その明晰な報告書は、県知事に提出されました。
 2003年2月9日には、その再評価委員会による市民公聴会が開かれ、それに対し、県土木部河川課は出席を拒否するという事も起こりました。専門家にたちうちできないことを自ら示したようなものです。
市長選で住民の意識を問う
問 そうこうするうちに、高崎市長選が2003年4月にあります。
大塚 政治的な様相になっていましたからね。ダムに反対する団体のうち3団体が中心になって高崎活性化委員会をつくり、民主党で衆議院議員をねらっていた中島政希さんを離党させて市長選を闘ったのです。彼は鳩山由紀夫さんの陣営なので、これは後に民主党のマニフェストの八ッ場ダム問題にもつながっていくことになります(現在、中島さんは民主党の衆議院議員)。
 倉渕ダム問題は、市長選を通してますます市民たちに知れ渡るようになりました。結局、市長選には負けましたが、もう一人の候補も倉渕ダム問題では同じような反対の立場をとったことから、現職で当選した票よりも二人の得票数を足すと、反対側の方が上回ったということになります。当選した市長といえども、この事実を無視できなくなったのです。
 高崎市長は、「高崎市としては、積極的にダム建設推進はしていない」という立場をとるようになりました。2003年8月、高崎市長が県の予算についての要望書にも昨年まではあった「倉渕ダム建設促進」という項目をなくした。このことは各紙県版が報道し、皆の知るところとなりました。
公開討論会が実現
大塚 他方、市民団体からの働きかけで、県としても、市民への説明責任を果たさねばならないということになり、これも画期的なものですが、県と市民団体「群馬の自然を守るネットワーク」との共催による公開討論会が実現したのは、2003年8月9日のことです。どっちが言っていることが正しいか、住民が自ら考える機会が設けられたのです。
 倉渕ダム再評価委員会で問題点を熟知していた大熊孝氏、嶋津暉之氏が住民側からの意見を述べ、推進側からの意見は生彩を欠くもので、誰の目にも勝敗は明らかでした。
 第2回目の公開討論会を待たず、知事は、これは止めようということになりました。財政的にも厳しいし、倉渕ダムを建設しても、県が主張しているほど治水及び利水についての効果はないという理由です。そうして、2003年の12月の県議会で、倉渕ダム建設は「凍結」するという判断が下されたのです。
八ッ場ダムはどうなのか 
問 県営ダムだから、知事の判断で取りやめることができたのですね。それに対し八ッ場ダムは、治水、利水などで首都圏の都県全体に関わってきますね。大塚さんは、八ッ場ダムの問題についてはどのようにお考えですか。
大塚 ダムそのものは、経済成長する過程で、水源や電源としての役割を果たしてきたのは事実でしょう。ですが、ダム政策は多目的ダムとして治水とか利水に深く係わる中で、国が補助金を出すことから、余計なダムがたくさんできたと思います。洪水の危険度を余計に見積もって、それでダムが必要なんだという展開でどんどんダムが造られていく。おそらく八ッ場ダムについても、基本高水流量そのものの考えを再検証していくのではないかと思います。
 水利権の問題もむずかしい問題です。埼玉県も千葉県も言っていますが、「渇水になった時に困る」と。
倉渕ダムの場合も、高崎市は農業用水を一部転用して水道水にしています。ですから、水そのものは物理的には間に合っているのです。ですが、水利権ということになると、圧倒的に多いのは農業用水です。その農業用水っていうのは、田んぼが少なくなっていく中で使用量は少なくなってきている。ただ、実際に転用が許可されているかというとそうではない。きちんとした水利権を取るためにはダムを造らないと得られないという口実で、河川行政がすすめられてきた。水利権というのは非常に大事な権利なので、これを簡単に水道水に転換させるというのは難しい部分もあると思いますが、農業用水等の転換も含め、今後政治や行政が取り組むべき課題なのです。
問 お金の使い方とかの問題はどうですか。
大塚 ダム建設の経済効果の面では、一部のゼネコンが潤うくらいなのです。しかも一時だけです。それから、もう一つ、マスコミも言っていない問題ですが、公共事業というのは必ず地元の有力者といわれる人たちが見返りを求めるということです。それが問題を非常にややこしくしています。ダム建設に絡めていろいろ事業を持ってくることで結果的に地元の土建会社等も潤うことになる。そういう人たちにとっては、反対運動があると、自分たちは反対運動とは違って行政側の協力者なのだという構図で出てくるのです。そしてそれが地元の意見だ、みたいなになってくると、ややこしくなってきます。
 八ッ場ダム問題でも、住民の声には、そうまでして進めなくてもよいという考えも実はかなりあるのではと思うのですが、ややもすると、そういう声はかき消されてしまいがちだ、ということです。
ダムで壊される自然の循環
問 ダムと農業などの関連はどう考えますか。
大塚 日本全国津々浦々、ほとんどの川がダムで遮断されてしまっています。烏川は、唯一ダムのない川ですが、これが遮断されてしまうと、上流の森の中から流れてくる腐植とか養分とかがダムに貯められてしまいます。砂防ダムも相当ありますからダムに堰き止められて、ちょろちょろとしか来ない。海もそれによって影響を受けます。
 砂が流れないから、海岸が少なくなってしまうのです。砂で埋まったダムは、その砂の上を川が流れるようになるのです。また、漁業にも影響があります。富山県の黒部ダムでは、堰き止めているゲートを開けて、溜まった砂を流しましたが(1991年)、堆積物は腐敗してヘドロ状になっている。そのため、海一面に異臭がし、刺し網漁の魚も7割が死ぬという被害が起きました。
 八ッ場ダムが計画されている吾妻川の上流には全国有数のキャベツ産地嬬恋村があります。化学肥料とりわけ窒素分の多投入による地下水汚染が全国的に問題になっていますが、嬬恋村も例外ではないはず。窒素肥料は硝酸態窒素に変化し大量に吾妻川に流れ出ていると思われます。ダムができれば堰きとめられたダム湖は、川の浄化作用がなくなるため、コケ類の異常繁殖を引き起すなど水質の悪化が避けられないでしょう。ダムにより流域全体の生態系は大きく崩れてしまいます。
問 どうもありがとうございました。これからもがんばってください。私たちも今後の八ッ場ダムの行方に関心をもっていきたいと思います。                 (2009年11月9日)

参考資料 
『倉渕ダム白書―倉渕ダム再評価委員会最終報告書』 倉渕ダム再評価委員会平成16年4月4日
宮原田綾香著中島政希監修『ダム建設による地域コミュニティの変容 ― 八ッ場ダム建設計画の進行過程から見える現状と課題』NPO法人公共政策研究所、平成21年1月
ホームページ 
倉渕ダム建設に関する様々な問題点 http://t-mizu.hp.infoseek.co.jp/
八ッ場あしたの会 http://www.yamba-net.org/ 


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Posted by やんばちゃん at 15:28│Comments(0)八ッ場に願う
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